〔第7回(最終回)〕 ~“実感”に勝るモチベーションアップなし!を“実感”~ <オーストラリア>

“Think Globally, act locally(地球規模で考え、足元から行動する).”

これは、80以上の国々への訪問歴・居住歴のある学院長・中川が、その思い出をランダムに記すシリーズコーナーです。お気軽にお読みいただければ幸いです♪

 

コロナに始まりコロナに終わった(コロナ禍自体はまだ終息していませんが・・・)令和2年度も今日で終わる。同時に、湘南一ツ星高等学院は明日から開校2年目を迎える。この節目とともに、昨年9月から月1回のペースで掲載してきたこの学院長コーナーは今回を最終回とします。次年度以降、これまでとは違った形でメッセージを発信しければと思いますが、ひとまず半年間ご愛読(?)いただいた方には、心より御礼申し上げます。有難うございました。

 

ということでこれがラストとなる当コーナー。これまで、登山だビールだタランチュラだで、あまり教育と関係のない話が多かったし、それはそれで良かったと思っているが、

 

最終回ということで、そして湘南一ツ星開校初年度の最終日ということで、今回は、多少は教育感&教育観ある話を紹介させてもらいます。

 

「先生! 息子が合格したら、二人で好きな国を旅行してください! 費用は全額ウチがもちます!」

 

これは、大学時代に家庭教師として担当していたI君の中学入試が数か月後に迫った或る日、I君の父親が私に対して発したサプライズ宣言。

「え~~~! ホントにいいんですか~~~?!」

「はい! 私の兄が旅行代理店を経営しているので、先生と息子で行先を決めてくれれば、どこでも手配させます!」

結果、I君が「オーストラリアに行きたい! コアラ抱っこしたい!」と言ったので、行先はオーストラリアに決定。

 

 

告白すると、オーストラリア人やオーストラリアファンには申し訳ないが、遺跡や、歴史ある建造物、古い町並みが好きな私にとって、オセアニアは、正直、興味の薄いエリアだった。なので、I君が行先にオーストラリアを挙げた時、『何で、よりによってオーストラリアやねん?!』と心中で叫びつつ、あくまで主役は彼なので、「コアラ可愛いから、楽しみやな~♪」などの台詞を発したものだった。多分、若干ひきつった表情で(笑)。

断っておくが、勿論、オーストラリアは決して行きたくない国ではなかった。人気観光地の1つだし、シュノーケリングやダイビング好きの私としては、ゴールドコーストはいつか訪れられればいいなと思ってはいたが、少なくともわざわざ自腹で行くことはない場所だと思っていた。だが、今回は自己負担ゼロ! 自腹で行く可能性が低い国だからこそ、そこにタダで行けるってのは超ラッキー! そう思考を切り替えると、俄然ファイトが湧き、学習指導にいっそう熱が入ったかも(笑)。

そういう訳で、コアラとゴールドコーストに燃える師弟コンビは、正月も元日から猛特訓。 お父様! あなたが打ったカンフル剤、ご子息にも私にもメチャ効き始めましたよ~~~!

 

結果、I君は見事志望校に合格! 全てはI君の頑張りの賜物だが、多少はカンフル剤も効いたのかも(笑)。ともかく、色んな意味でバンザーイ! 因みに、I君のご両親は、お二人ともイイ意味で喜怒哀楽がハッキリ表出するタイプ。合否発表会場で感極まって雄叫びをあげておられたお父様と感涙にむせんでおられたお母様の姿は、今も鮮明に覚えている。

そんなご両親に見送られつつ、師弟コンビはめでたくオーストラリアへ出発!

 

 

それまで私は幾つかの国を訪れてはいたが、このオーストラリア旅行は初めてのパックツアー。JALに乗ってオーストラリアはブリスベン空港に到着すると、現地スタッフのお出迎えを受け、バスで市内へ移動。それまでの旅では、空港なり駅なりに着くと、先ずは

  • その土地の情報が得られるマップ等の無料ツールを探す。
  • 市街地へ向かうための最も廉価な交通手段を探す。
  • 街中に到着したら格安の宿を探す。

というプロセスが必須だったが、今回は全て不要。楽過ぎて逆に落ち着かない感じだったが、まあ、な~んにもせずとも全てが平穏に進んでいくのは、それはそれで「よきに計らえ」って感じで、なかなか苦しゅうない。

 

 

このツアーは、全ての行動がガチッと定まったタイプではなく、フリーツアーに近いスタイル。ホテルは全泊決まっており、食事も朝・夕はホテル内のレストランで使用できるミールクーポンが予め渡されているが、観光やアクティビティについては、若干は組み込まれているものの、大半は自由行動。ということもあって、空港から街中へ移動するバス内では、添乗スタッフから、「〇〇動物園への半日ツアー」や「海岸ドライブしながら△△水族館と□□センターを巡る1日ツアー」等々、各種オプショナルツアー(追加で申し込める有料ツアー)の紹介がなされ、皆様、あれこれ選んで申し込まれていた。確かにこれなら、ホテル発着で道に迷うこともなく、言葉の面も含めて安心・楽ちんではある、が、驚いたのはその価格! 例えば、「◇◇野鳥園への半日ツアー」が優に一人1万円を超える金額! 野鳥園の入園料ならせいぜい1,000円程度だろうし、行き帰りも、路線バスなら数百円、もし園の送迎バスがあれば無料かも。それが1万円以上とは・・・。I君が「先生、月曜日は〇〇と△△申し込もう♪ 火曜日は一日▽▽へ行って、水曜日は□□で・・・」など弾んだ声で語りかけてくるが、「まあまあ、今急いで申し込む必要はない」となだめる。それでもコアラに燃えるI君は「早く申し込まないと満員になっちゃうよ。コアラ抱っこ出来なくなっちゃうよ」と食い下がってくる。嬉々としてオプションツアーを申し込んでいる人たちを前に「オプションを利用せずとも、もっとイイ手はある」的な発言をするのは憚られるため、「兎に角、後で説明するから」とその場を収める。

ホテルに到着して旅装を解きつつ、その“もっとイイ手”をI君に説明。“イイ手”って程のものではないが、要は、公共機関を利用して自力で行けば遥かに安く済むし、自由もきくということを力説。I君は出国前にご両親から「いくらお金がかかっても、安心安全を最優先すること」と言い聞かせられており、多額の小遣いももらっていたので、やや不安気&不満気だったが、私としては思うところが2つあった。1つは、単にお金がもったいないから(笑)。もう1つは後述する。ともかく、「俺に任せりゃ“安心安全”な上に、自由に寄り道等アレンジできてもっと楽しめるぞ~♪」と説き伏せた。

ホテルフロントで路線バスや園の送迎バス等々について尋ねた結果、100円程度で利用できる巡回バスがあり、これを使えば行き帰りに他の場所にも立ち寄れると知った。流暢とは言えないながらも英語でやり取りする私を見ていたI君は、安心と共にちょっぴり尊敬の眼差し。かくして翌日、巡回バスに乗車して▽▽園へレッツゴー! 結果、オプションより一桁安い費用で楽しみ、コアラ抱っこの重要ミッションも無事果たし、その他の見所も満喫するに至った。めでたしめでたし♪

 

 

また、こんなこともあった。

或る日、I君が鼻から出血・・・。まあ、たかが鼻血ぐらい、自分のことならティッシュでも丸めて詰めてりゃ止まるだろうで済ませるところだが、I君のご両親から預かりした大事なご子息のこと故、為念、ホテルフロントに紹介してもらったクリニックへ連れて行った。まあ、予想通り大したことはなかったが、医師や看護師と英語でやり取りする私に対し、I君は、鼻血を流しつつ、またまたちょっぴり尊敬の眼差し。それを察知した私は、さして上手くもない英語を駆使し、必要以上に医師や看護師にジョークをかまして笑いをとることに努めた(笑)。これまためでたしめでたし♪

 

そんなこんなで、旅も終わりが近づいた日の夕食時、楽しかった数日間を振り返るともなく振り返っていた時、I君がこんな趣旨の発言をした。「ちょっとした勇気と工夫と語学力があれば、外国を色々楽しめるし便利だね!」。更に、実感込めてこう言った。「僕、中学入ったら英語頑張ろう!」。

 

 

実はI君は、将来は外交官になることを目指していた。あれから30年。彼がその目標を叶えたかどうかは分からないが、ともかく、この時の彼の「勇気と工夫と・・・英語頑張ろう!」発言は嬉しかった。というのも、オプショナルツアー云々のくだりで「思うところが2つあり・・・もう1つは後述する」と記したが、その「もう1つ」が、I君が「勇気と工夫と・・・英語頑張ろう!」と感じてくれるよう仕向けることだった。それが、家庭教師として私が彼にしてあげられる最後の仕事だと考えていたし、この旅をプレゼントしてくださったI君ご両親への恩返しだとも思っていた。それがどうやら思惑通りにいったように感じたその夜のビールは格別に美味しかった気がする(笑)。本当に、めでたしめでたし♪ 同時に、彼のこの“実感”こもった発言には、教職を目指していた私として感じるところ大きかった。

人生、いつどこで何が役に立つか分からない。だから、多少詰め込み気味でも、一通りの知識や技能を身に着けさせる教育は当然必要だと思う。だが、同時に、これを知ればこんな風に役に立つんだ、これを習得すればこんなメリットがあるんだ、と感じさせることも大切だと思う。勿論、そんなことは今更私ごときが言うまでもなく、全ての教員は分かっていることであり、その努力をしない教員はいないと思うが、手間暇かかる上に、効果が即現れるものでもないため、実際はなかなかそこに労力を割くのは難しい。けれど、このI君のような“実感”を得ることは、全ての生徒にとって最高のモチベーションアップだと思う。まあ、海外を旅すると「ちょいとした工夫」や「語学の有用性」は極めて“実感”しやすいことだが、全ての人間がそのような状況に身を置ける訳でもなく、そもそも学習は全ての教科・科目、更に教科以外の領域にまでわたる訳なので、その全てにおいて常に“実感”を伴わせるのは至難の業ではある。しかし、教育、特に多感な十代の若者への教育では、それを日々追求しなければならないと思う。「受験に出るから」とか「単位取得に必要だから」も、それはそれで重要な動機づけではある。なぜなら、重要だから受験や単位取得に必要なのだから。ただ、そこに少しでも「知ることの面白さ」や「習得することの有用性」を実感できるような仕組みや働きかけをプラスすることが重要だと考える。キリのないことではあるが、これを追求するのは、教育の永遠の課題であると同時に、最大の醍醐味だと思う。

この、“キリのない”ことを追求し、少しでも多くの若者が、少しでも多くの実感を得られる教育の具現化を目指して、私は1年前に湘南一ツ星高等学院を設立した。一言でいえば、それは「知識」×「実践」×「社会」の教育。詳細はここでは割愛するが、目指すのは、単なる教科授業に終始するのではなく、学びの機会や題材を広く求め、多くの学外協力者の力もいただきながら、生徒が少しでも多くの“実感”を持てるよう働きかけることであり、視野を広げ、多角的に物事を捉えられる力の伸長を図ることである。この積み重ねが、卒業時点で最も悔いのない進路を実現する一助になると私は考えるからである。

 

湘南一ツ星高等学院のモットーは『向上心に、無限の火をつける』。人間誰しも、それが表出しているか潜在しているかの違いはあれ、向上心を有しているはず。教育の要諦は、その向上心を喚起し、最終的には教員が介在せずとも生徒自身が向上心を持って道を拓いていけるレベルへと導くことにあるとの考えからの言葉である。開校1年目は、正直、思い描いたことのほんの一部しか具現化できなかったが、当コーナー最終回のタイトルとした“実感”を、少しでも多くの生徒が得られるよう努め続けたいと思うし、それが、私も含めた湘南一ツ星の全ての教職員に共通する志である。

開校2年目となる2021年度も、そんな教育を、あまり肩肘張らず、楽しく、でも真面目に追求していく所存ですので、引き続き湘南一ツ星高等学院を見守っていただければ嬉しく思います。

 

以上、半年にわたり、おっさんの昔話にお付き合いいただき有難うございました。またいつか何らかの形でお付き合いいただければ幸甚に存じます。

 

2021年3月31日 中川 智幸